3日目 8/23
朝になれば、少し天気が回復しているかもしれないと淡い期待を込めていたが、結果はどんよりとした灰色の濃霧と雨混じりの強風だった。
水晶小屋までの道のりを考えると、ここで水晶岳に行かないのはなんだか勿体ない気もする。
うーむと悩んだ挙句、一応小屋の裏手にある水晶岳への取り付きまで行ってみたのだが、ビョービョーと体が持って行かれそうなくらいの強風に、私の山頂への気持ちも何処かへ飛ばされていった。
やめだやめだ!と小屋に戻り、もう一度準備を整えて黒部五郎小舎へと出発した。
【コースタイム】
水晶小屋 5:52 - 三俣山荘 8:30着 - 9:10発 - 黒部五郎小舎 11:40
この日はろくに写真も撮っていない。
水晶小屋から悪天候の中、どんどんと高度を下げながら九十九折の道を行く。雨は斜めになって私の顔に刺さってくるので、フードをしていても顔面は雨風と鼻水でぐちゃぐちゃだったが、周囲に誰もいないので全く問題はなかった。
黒部源流の谷沿いは雨雲の下。さっきまでの強風も谷に入った途端静かだ。
黒部川水源地標まで降り切ると、今度は三俣山荘への登り返しである。
あんなに下ったのにまた登るのか、とげんなりもするのだがなんせ三俣山荘まで行けば喫茶があるのだ。うどんか?ラーメンか?と大変悩ましい所だ。それだけを考えてひたすらに木々の間を登って行った。
三俣山荘に着く頃、止んでいた雨が再び降り出してしまったので急いで2階の喫茶室へ逃げ込んだ。
ここに来るのは2017年以来で、その時は窓の向こうに鷲羽岳と硫黄尾根を望む事が出来たが、今回は真っ白い景色しか見えなかった。
早朝から強風と雨にやられ、暖かい汁物がどうしても食べたかった。以前立ち寄った際に食べたうどんと同様に、醤油ラーメンが体に染み渡っていくのが分かった。
腹ごしらえも無事に完了し、黒部五郎小舎へと出発。
相変わらず雨は強く、背の高いハイマツのトンネルからは雨が滴り落ちてきた。雪渓がまだ残る岩場を通過し、今度は低木の隙間を下る道を行く。
足元のゴロゴロした岩達はただでさえ歩きにくいのに、この大雨である。滑って転ばないように注意しながら下って行った。
下って下って、真っ白い霧の中に黒部五郎小舎はあった。
到着したのは12時前。三俣山荘にテントを張ってこちらへ来た方が何人かいたが、今日ここに泊まる人はまださほどいなかった。
下に着ていたシャツが濡れてしまい、とても寒い。登山を始めたばかりの時に買ったレインウエアはそろそろ寿命のようだ。
早々に着替えを済ませてから再び外へ出てみるも、大雨は一向に止む気配はない。屋根からダバダバと物凄い音を立てて雨が地面へと降り注いでいた。
山頂や黒部五郎岳のカールなど色々と諦めた結果、私はまたラーメンを食べていた。塩分は大事である。
さっき食べたような気もするが、あれから3時間は経っているし動いていれば腹は減り、とっくにエネルギー切れだ。
ぬくぬくとストーブに当たりラーメンで腹を満たしているうちに、いつの間にか雨は止んでいた。
小屋の周辺には幾つもの池塘があり、黄色く色付いた葉は雨上がりでとても綺麗だ。時間はたっぷりあったので、ゆっくりと散策をしたりスケッチをして過ごした。
モサモサでムックの口みたい
面白い形の葉
夕方、少しだけ向こう側が見えた。
4日目 8/24
ここ何日かずっと濃霧だ。
流石に霧にも飽きてきたが、空に文句でも言って雨に降られてしまっては困るので、大人しく出発した。
【コースタイム】
黒部五郎小舎 5:45 - 三俣蓮華岳 8:43 - 双六小屋 11:37
今日の懸念材料としては昨日来た道を途中まで登り返す、という事だった。
ゴロゴロの濡れた岩を登るのが苦痛で仕方がない。はぁ〜と深いため息をつきながら、その道へと足を踏み入れた。
登っていくと案外早く登り返す事が出来た。下るより楽じゃないか…と一人ブツブツと何か発しては歩く。
昨日は大雨の中歩いていたので、疲れて辛い記憶になっていただけなのか、単純に登りに慣れたのか理由はわからなかった。
三俣蓮華岳は巻くはずだったが、途中で気が変わり5年振りに行ってみようと分岐を進んだ。
もう少しで山頂という所で、雷鳥2匹と出会う。そして双六へと下り始めた直後、また雷鳥が登場。
三俣蓮華岳の山頂は以前と同じく真っ白で何も見えなかったが、ルート変更して良かったと思いながら少し笑った。
キノコをツンツンしていたけどあまり美味しくなかった様子
おんなじポーズしちゃって仲良いね
成鳥よりは少し小さい気がしたので兄弟だろうか。一度に4羽見られるなんてラッキーである。
雷鳥軍団に遭遇したおかけですっかり元気になった。足取りもなんだか軽くなった気がするし、なんて単純なんだろうか。
歩いていても霧は晴れてはくれなかったので、双六岳山頂へは行かない事にした。
一応昨年ガスの中ではあるが登っているし、巻道で小屋まで向かい始める。どうも双六岳とはタイミングが合わない…。
何がなんでも山頂を踏みたいという人もいるとは思うが、行かずともそれに至る稜線を歩いたり、山のどこかに接していれば何か新しい発見があったりするものだ。
少なくとも私が山に登る理由は、山のさまざまな側面を知り、それを元にして描く事である。
ずっと地面を見たり雨に降られたり、ひたすら山の匂いを嗅いだりする事も自身にとっては大切で、これらはその場所に行かなければ体感し得ない事なのだ。もちろん、山頂まで上り詰めた時の達成感はあるのだが、「無理はしない」これに尽きる。
この巻道を歩くのは初めてだったが、双六岳のなだらかな山肌がハイマツやコバイケイソウで色を変え、見惚れてしまう景色だった。
夏と秋だ
双六小屋に近づくにつれ、晴れ間が出てきた。
今回も山頂から槍ヶ岳を望む縦走路は見られなかったが、こちらの景色もなかなかいいもんである。いや〜、綺麗だ!
霧はもうほとんど取れて、鷲羽岳までお目見え。来年は行けるだろうか。
晴れてきて、一気に景色が見えたので立ち止まってはカメラを構える、じっと目で見るの繰り返し。これはなかなか進まない。
双六小屋で食べた、かた焼きそば。
かた焼きそばは美味しいし雰囲気も好きである。このかたい麺があんかけでフニャった所が一番美味い。
パリパリとフニャフニャの狭間。
腹ごしらえをした後、小屋前の岩にドッカと座ってスケッチをした。画用紙にペン、やっぱり山旅にはこのセットがいい。
5日目 8/25
【コースタイム】
双六小屋 6:00 - 弓折乗越 7:09 - 鏡平 7:50着 - 8:10発 - 秩父沢 9:45 - わさび平 10:44 - 新穂高温泉 11:55
最終日。この日は悪天候で写真がない。
前日見た小屋の天気予報掲示板通り、夜中から大雨になった。
早朝3時頃、風雨の音で目が覚めたが、下山路の小池新道をこの雨の中歩くのか…ととても憂鬱な気持ちで、もう一度布団をかぶる。
何度も通った道ではあるが、この雨の中は嫌だ!頼むから止んでくれ…と願う事数時間、6時前に天気は霧雨になった。
風はまだあるが、これならまだマシだろうと小屋を出る。
弓折乗越あたりまでは、濃霧と小雨の繰り返し。鏡平以降、樹林帯へと移行すると再び本降りとなった。
心配していた徒渉区間は沢の増水はさほど無しで、問題なく通過。
標高が下がってくると雨は次第に止み、わさび平へと向かう頃には晴れ間も出てきて、周りの登山者たちも心なしか笑顔である。
最後の長い長い林道を無心で歩いていると、遠くの方にモウモウと立ち上がる湯気が見えた。