シロヤシオがそろそろ見頃らしいという知らせを聞きつけ、私はいそいそといつもの山へ向かった。
最近は部屋に篭りきりで制作していたので、随分と体が鈍っている。
5月の気持ちの良い新緑と、山の香りを堪能しながらゆっくりと沢沿いを登っていった。
相変わらずあなたはいい山だねぇと、ブツブツとこの山を褒めながら歩くこの時間が大変に幸せである。
小さい滝もある
ここ何回かは下棚、本棚(滝)まで行ってスケッチをして帰ってくるパターンだったが、シロヤシオが咲いているのは尾根上なので久々に頂上まで行く事にした。
沢沿いは涼しくていいのだが、5月中旬の西丹沢はもう暑い。名残惜しいけれどここらで清流とはさよならだ。
思えば頂上まで行ったのはかなり前だった。その時は3月で頂上付近には雪もあった為、だいぶ印象が違う。
沢から離れた後は森の中の細い尾根や涸れた沢を通過しながら標高を上げていくのだが、ここからが暑かった。
ここらで、5月初旬に行けば良かったのではないかという後悔が始まるのだが、いや、初旬ではシロヤシオは咲いていないぞ。だからこの日で良かったんだ…と自分自身に擦り込んだ。
畦ヶ丸の登山道は始めは沢沿い。それから沢から離れてガレた涸れ沢を進んだり、細い登山道を登りつつ地道に標高を上げていく。
そうすると、やがてブナやシロヤシオ、ミツバツツジが広がる尾根にやっと出るのだ。加えて山頂からの眺望はない。
一方、西丹沢を代表する檜洞丸(ひのきぼらまる)という山があるのだが、そちらはミツマタの群生地ありバイケイソウ繁る素敵な木道あり。
更には山頂直下の見晴らしも大変良く、晴れていれば富士山がドーンと見える。
また、登山道にツツジ新道という名前が付いている事からも分かるように、ツツジとシロヤシオも沢山咲くときた。
ここまで書き連ねてみると檜洞丸の方が人気があるのは一目瞭然なのだが、私は断然畦ヶ丸の方が好きである。
これは誰がなんと言おうと畦ヶ丸なのだ。
なぜ好きなのかなんてことは聞かないで欲しい。
好きな点を挙げようと思えばいくらでも可能だがそれらは目に見えるものだけではないし、「直感的な好き」なのだから。
少し標高が上がって涼しい風が吹いてきた。新緑が本当に綺麗。
そして、尾根に出るとシロヤシオがちらほら顔を出し始める。ここまで来たらご褒美タイムの始まりだ。
ああ綺麗、ああ綺麗…と見上げては足が進まなくなってしまった。
薄めの葉が透けた感じも良いし花も派手ではない所もいい。
また、葉の反射光もあるかもしれないがシロヤシオの色が少し緑がかっているような白色に感じ、そこもまた魅力的である。
爽やかな色
見惚れてばかりもいられないので、山頂へ向けて新緑のトンネルを進む。
尾根上には所々、大きな朽木がゴロンと転がっていた。以前の台風の時に倒れてしまったのだろうか。倒木の上空にはサワサワと新緑が揺れている。
西丹沢を訪れるといつも思うのは、森が本当に美しいという事だ。きっと全国各地にそのような森はあると思うが、良く行く山域にそれがあるのは幸せな事である。
ミツバツツジはほんの少し咲いていた。多分、檜洞丸では満開だったのではないだろうか。
久しぶりの山頂は、緑の木々で覆われていたがまだ鬱蒼とした感じはなく隙間から少し向こうの山が見えた。
お昼を食べた後、新しくなったという避難小屋を見に行ってから下山を開始。
時間にも余裕があったので、帰路でもこの森を楽しみながら歩く。常緑樹の葉は硬く艶やかで青々としているが、広葉樹は薄く透けている。
この時季でしか見ることが出来ない緑を観察する事ができ、とても満足した。
おっ、誰か住んでいますかー?(任意の住人は不在だった)
ここにもいい緑があった。
しかし、見れば見るほど新芽の緑は複雑な色をしている。
赤い色素を含んでいて少しオレンジがかっていたり、灰色にピンク色が入っていたりと見ているこちらを魅了してくるのでいちいち足を止めてしまう。
そして褒める。
キミもいい緑
堰堤まで下りてきて、今日はいい日だったなぁと振り返ると、初夏みたいに晴れた空だ。
一つ悔いが残るとすれば、帰りにビジターセンターでアイスを食べれば良かったなぁ。