久しぶりにテントを背負って山に行くことにした。
雨の日が続いていたが、この日はぽっかりと空いた晴れ予報。
本当は西丹沢でのんびりと山に浸ろうかと思っていたのだが、直前に丹沢の予報は雨に変わってしまったのだ。だから急遽行き先を変えた。
【コースタイム】
6/20
山頂駅 12:00 - 雨池 13:10 - 双子池 15:05(泊)
6/21
双子池キャンプ地 6:10 - 亀甲池 6:50 - 北横岳 9:10 - 北横岳ヒュッテ 9:35 - 山頂駅 10:25
坪庭には沢山の人がいたが雨池へ向かう道に入った途端、人がいなくなった。空はよく晴れている。
夏に向かって入道雲が山の背後から顔をのぞかせていた。
コトコトと音を立てて木道の上を歩く。雪が溶けて出てきた笹はまだ少し茶色い。
印象的だった枯れ木。物を擬人化するのが好きなのだが、これはお爺さんのようだった。
木道の終わりが近づいてくると足元に大きな石が出てくる。ここからは、雨池に向けて下っていかねばならない。
前日に降った雨のせいかぬかるんでいてとても歩きづらく、足を引っかけないように注意しながら下っていった。
ゴロゴロとした岩を下りきると林道に出た。日の光を浴びた新緑が光っていて、とてもいい気分である。林の先には一つ目の池、雨池があった。
林の向こうに水が見えた時、なんとも言えない嬉しい気分になった。雨池はだだっ広くて、静かな湖面が印象的である。
坪庭から下ってきてここで満足しかかったが、双子池はまだ先。再び、森の中へ入った。
静かな森が続き、相変わらず誰にも会わない。一人森の中を横断している感じだ。ここから道を塞ぐような倒木が徐々に多くなってきた。
上の倒木は鳥居みたいな形状をしていたので、なんとなくお辞儀をしてからくぐった。
森が途切れると林道に出たのだが、少し分かりにくくかった。この標識も曲がっている。
緩やかな林道の坂を歩いていくと下の標識が現れたが、これも根元が心もとない。
「双子池」を指し示す方には鬱蒼と茂った笹と薄暗い森。よし、と少し気合を入れて3度目の森の中へ入った。
この日は熊鈴を忘れてしまい、静かすぎる森の中でストックを叩いたり独り言をブツブツと唱えながら進んだ。
いよいよ双子池に下って行く道沿いの樹に沢山のサルオガセが垂れ下がっていて、しばし見とれて写真を撮った。薄暗かったせいかぶれてしまっていたのが残念だ。サルオガセを帰ってきてから調べたところ、地衣類であった。
結局、坪庭を通過してから双子池ヒュッテで受付をする時まで誰にも会わず。
池の畔にテントを張ろうとキャンプ地まで歩いて行く途中でついに雨が降ってきてしまった。
森の中にも張れるスペースはあったのだが、折角だからと少し高くなっていて池が見渡せる場所に我が家を建てた。
テントを張っている最中、数人のおじさん達が歩いてきたが小屋に泊まるようだ。その後もう一人テン泊の方が来たくらいでキャンプ地はガラ空きだった。
二日目
朝、晴れ。夜中にまた雨が降ってテントは濡れていた。
今日は北横岳まで登って山頂駅まで下るだけなのでかなり時間に余裕はある。朝食を食べ、6時すぎにゆっくり出発する。
まずは亀甲池を目指す。昨日の道ほどではないがやはり倒木があった。
夜中に降った雨のせいか湿度は高い。
苔むす森を抜け、池から池へ移動してきた。
亀甲池を囲むようにこんもりと山がそびえ立つ。針葉樹は緑濃く、広葉樹はつい最近芽吹いたような新芽の色だ。
少し休憩をして、ここから北横岳に登り返しである。
しばらくは平行移動で少しづつ傾斜が出てきた。
道中、朽ちた倒木の上に小さなきのこが群生していた。苔が水分を蓄え、きのこや植物を育てている事がわかる。
そう思うと山は丁寧に歩かなねばならぬなぁと思うのであった。
背負っている荷物は多分15kgほどだろう。
しかし、久々のテント装備、体力も落ちていたので息が切れないようにゆっくりゆっくり登っていった。
北八ヶ岳ロープウェイ側から北横岳に登るルートと比べると、この道は勾配が少し急でなかなか稜線に出ない。
針葉樹林の隙間から時々陽が差し込み、苔むした岩がランダムに現れる。そうして山の上へと近づいていくような静かなルートだ。
それでも少しづつ進めば頂上に着くのだし、幸い今日は時間が沢山ある。のんびり行こう。
疲れてきた頃、いいタイミングで注意喚起の看板が出てきたので思わず笑ってしまった。
「はい、気をつけて行きます。」と気持ちを切り替えて進む。
夕方から夜中にかけて降った雨で、植物は艶やかだ。大雨の後は、植物が綺麗に見える。
9時すぎ、長かった樹林帯が嘘のようにぽんと北横岳の山頂に出た。
すると同じタイミングでロープウェイ側からおじいちゃんが一人登って来た。本日初めての人だ。
山頂は薄曇り。
5月に来た時には雪もあったが、見渡した八ヶ岳の山々はもう緑色だ。
前回はまだ雪で覆い被されていた木橋もすっかり出てきていた。こんな橋だったんだな。
森をゆっくり歩いて、北八ヶ岳は優しくて凛とした山のように感じた。火山帯の石が沢山の水を蓄え、池が出来た。そこに木が生えて森に生き物が集まってくる。倒木には苔や地衣類が定着してさらに森を豊かにしていくのだろう。
ほとんど人に会わなかったからこそ、そこにお邪魔したような気分であった。