GWの半ば、雪がまだ残る北八ヶ岳 北横岳へ行ってきた。
茅野駅から北八ヶ岳ロープウェイ行きのバスに乗り込んだら、山の始まりだ。
【コースタイム】
ロープウェイ山頂駅 9:19 - 北横岳ヒュッテ 10:54 - 11:13 - 北横岳南峰 11:35 - 北峰 11:55 - 12:06 - 北横岳ヒュッテ 12:29 - 山頂駅 13:38
晴れた。風は弱く少し暑いくらいの陽気である。坪庭にはほぼ雪はなく、北横岳分岐から少しづつ現れ始めた。
水色の空と緑、黄緑、雪の白と枯れ木の褐色が視覚を刺激してくる。おお、と思わず声が出た。
日陰の斜面には溶けた雪がちらほらと残っており、山の上にも春が来たことを実感した。
岩や植生などを観察しつつ、一通り坪庭を散策。
この場所は風が強いのだろう。枝がグンと皆同じ方へ向いている。
以前も言ったかもしれないが、這松やシラビソ、コメツガといった標高が高い場所に育つ針葉樹に何か心惹かれてしまう。
一枚一枚の細かな葉が筆で描きやすいからか、その緑の深さが好きなのか、理由ははっきりしない。
とは言いつつ、広葉樹のあの透けるような葉の色も好きなんだから困ったものである。
雲がもくもくと立ちのぼって来た。コースタイムが短めとはいえ、天気が良いうちに登りたいものだ。
北横岳分岐。
分岐を過ぎると足元にシャーベット状の雪が出始めたので、ここでアイゼンを装着した。
凛と立つ枯れ木はもう生きていないけれど美しい。奥の山には縞枯れ現象が見られる。
足元に目をやると雪解けとともに顔を出した方がいた。「やあ。」とでも言っているような気がしたので記念に写真を撮っておく。
ザクザクと雪の上をアイゼンで踏みしめる音が小気味良い。風もなく最高の山日和だ。
歩いていると、所々に出てくる木の形が良い造形をしていてその都度立ち止まってしまう。なかなか進まない。
橋もまだ雪に埋もれたままだ。
九十九折の道を登っていくと少しづつ視界が開けて来た。
これは、コメツガだろうか。光が反射してきれいだった。
もっと歩きづらいかと心配していたが、アイゼンのおかげで安定して歩くことが出来た。
沢山の人が通り、道が出来ている。
この小径も冬には全く違う顔を見せるんだろうな、とぼんやり考えながら歩いていく。
更に進むと森の匂いが濃くなったような気がしたので、その匂いを思い切り吸い込んでみた。
鼻を森の匂いが抜けていくのがいい気分だ。
そして、シラビソの表皮は白くて独特の模様がとてもいい。この森は本当に好きな森だと思った。
雪が光を反射して枝や葉に当たるからか、光が回っているようだった。
地面に近いところは影が濃くなり、枝が離れるにつれ輪郭は淡くなって消えていく。
それはもうきれいできれいで、なんとも言えない感覚になった。
木々の根元にはツリーホール。
そこから顔を出している若木は両脇の木に守られながら成長していくのだろうか。
こんなに雪が残っているが、雪は着々と溶け始めていた。そういえばもう春だった。
さあ、北横岳ヒュッテに到着だ。
普段の平日登山と違って、この日の北横岳は大変賑わっていた。お昼ご飯を食べ、山頂へ向かう。
山頂直下の坂は少し傾斜があり、アイゼンがとても役に立った。技術がある人ならともかく、私のような者は「念には念を」で丁度良いのだ。
南峰には雪は全くない。空気は少し霞がかっていたが、八ヶ岳の山々を見渡す事が出来た。
しかし、そうこうしているうちにさっきまで晴れていた空に鈍い色の雲が押し寄せてきているのが見える。
天気が崩れ始めたので急いで北峰へ向かう。
向かう途中に生えていた木々は、空に近い場所で生きている。なんだかそれを少しばかり羨ましく思った。
アイゼンで地面を踏みしめながら歩く。傾斜がない雪面を歩くのはとても楽しかった。
木々の向こうには蓼科山が見えている。こんもりとした優しい形。
北峰に到着。
遠くに見える南八ヶ岳の急峻な山々はまだ雪をかぶっていた。
写真を撮って景色を眺めていると徐々に風が強くなってきて、上空では雷が鳴った。先ほどの黒い雲がどんどん迫ってくる。下山しよう。
稜線とお別れして再び森の中へ入り込む。
雪から顔覗かせた植物や枯れた木の枝をずっと見ながら下った。
緑の手。
鋭角だな君たちは。沢山の傘を広げたようだ。
こちらは、どうもこんにちは。と、律儀にお辞儀までしてくれた。
折れてしまった枝は、魚の骨。
傾斜が緩くなると、もう坪庭は近い。
少し広い場所でアイゼンを外していると、さっきまで山頂にいた方々も同じタイミングで下山してきて「お疲れ様」と声を掛け合った。
山肌は縞枯れ現象が多く見られた。その様が形や色で見えてくるのが楽しい。
橙色から深緑へ、まるで色の層だ。たまたまこうなっただけだろうが、大変美しいものが見れてとても満たされた気分である。
これから山の色は濃くなって、緑に飲み込まれていくのが待ち遠しくなった、そんな日だった。